謹啓
今回、名古屋通り魔殺人事件の犯人像について、「統合失調症を発病している可能性がある」という専門家の見解を放送してしまったことは、ご指摘の通り「統合失調症と診断された人たちは危険な人たち」という差別意識や偏見を助長するものでした。そこで私どもでは一刻も早い対応を、ということから、問題の放送後、一番早い放送日である4月7日(月)、実際に放送をしてしまったのと同時間帯である「特報ウォッチ!」コーナーの冒頭、7時50分に以下のようなお詫びを放送いたしました。
『ここでお詫びがございます。4月4日の放送中、名古屋連続通り魔事件の犯人像について、専門家の発言として「20代で発病した統合失調症の可能性がある」という旨を放送いたしました。通り魔事件と統合失調症を結びつけて放送したことは、統合失調症の患者が妄想にかられ、人に切りつけるような危険な人という差別、偏見を助長するものでした。そうした社会からの偏見に苦しみ、偏見を打ち崩すべく努力されてきた患者やご家族、そして関係者のみなさまにには大変ご迷惑をおかけいたしました。心からお詫びいたします』以上のような内容で放送いたしましたが、重ねて書面でもお詫びいたします。
〈経緯〉
まず、なぜ高橋紳吾東邦大助教授にインタビューを依頼することになったか、ですが、名古屋通り魔殺人事件については前日すでに第一報を放送していたため、この日の放送では内容を一歩進めて、「犯人の心理状態について専門家に分析してもらう」ことを前日の企画会議で決めていました。今回、高橋助教授に依頼することにしたのは、「ウォッチ!」が始まる以前に同時間帯で放送していた「おはよう!グッデイ」で2002年10月に放送したアメリカ連続狙撃事件の犯人像に迫った企画で、高橋助教授から犯罪心理学の専門家として「愉快犯、快楽殺人の一種でメディアの報道によって自分の犯行のモチベーションが上がり、次々とメッセージを出してゆく劇場型タイプ」というコメントを取材した経緯があり、今回の事件についてもインタビュー取材をお願いした次第です。今回もあくまで「犯罪心理学の専門家から犯人の心理状態についてのコメントをもらう」という方向性は確認していました。これは、この日の放送責任者である曜日プロデューサー、およびチーフディレクターのレベルにおいては、犯人像を安易に特定することによる人権侵害の危険性は十分認識していたからで、実際プロデューサーは担当ディレクターに対し、編集作業の途中に一度、精神病を犯罪と結びつけるようなコメントは避けるように、と指示を出しています。
一方、担当ディレクターの方は、統合失調症=精神分裂症という認識がなく、インタビューの内容から、精神病の一つではないかと思ったものの、専門的な症状名「統合失調症」としておけば問題ないと判断してしまいました。本人自身が初めて聞いた用語だったこともあり、視聴者にわかりやすくするためにと考え、米・インディアナ州に本社を置く製薬企業、イーライリリー・アンド・カンパニーの日本ホームページにあった統合失調症に関する医師のコメント「目の前の現実を生きるために必要な一つの方向に、自分の思考や行動を『統合』しているのです。このような『統合』の機能が何かの拍子に不調をきたした時に、過剰な刺激を整理できずに幻覚や妄想が起こると考えられます。」という部分を独自に引用省略し、「統合失調症・・・自分の思考、行動が上手く整理できず、幻覚・妄想を起こす」というスーパーテロップを作成し、インタビューVTRにかぶせています。
通常は放送前、とくに生放送においては人権侵害などの問題をチェックするため、責任者であるプロデューサーがVTRを事前にチェックすることになっていますので、本来であれば、放送前にこのVTRの問題に気が付き、放送されることはなかったはずでした。これ以降は内部の問題であることを十分承知しつつ、これを言い訳にするつもりも全くないことをご理解いただいた上で、問題の所在をはっきりさせるため敢えて説明させていただけば、新しい番組がスタートしてからまだ5日目、金曜日の担当スタッフにとっては初めての放送を出すことで精一杯という状況で、問題のVTRが完成したのは、午前6時の番組放送開始後1時間あまりたったころでした。しかもそのVTRはプロデューサーによる事前視聴チェックがないまま午前7時45分頃に放送、さらにプロデューサーはこの放送をしっかり視聴していなかったため、その場で問題認識ができず、番組終了に至るまで、なんの対応も取らなかった、というのが放送に至った経緯になります。
以上にように、当日の放送に携わったスタッフの中に、精神病と犯罪を安易に結びつけて考えてしまうような偏見と、精神病の方たちがさらされている差別についての認識があまりにも足りなかったことについては率直に認めざるをえません。また昨年7月に「精神分裂病が統合失調症に変わったことと変えるに至った背景」について全社的に周知したにも関わらず、担当ディレクターが「統合失調症」を知らなかったことについては、大変深刻な事態であると受け止めており、早急にこれまでの教育体制の問題の洗い出しと内容の見直しにとりかかっているところです。
〈今後の対応〉
私どもではこれまで、「精神障害を持つ人は危険な存在」という差別偏見を助長した他局の事例を他山の石とし、TBS社員全員が対象となっている社内研修{放送人セミナー」や制作担当者を対象とした研修で、精神障害についての知識、社会からの偏見による精神障害者の方やご家族の苦しみについて勉強する一方、TBSの新入社員についてはここ6年ほど、人権および障害者問題を考える研修の一環として、精神障害者の方のための作業所やグループホームで2泊3日ともに生活し、精神障害についての正しい知識を得るとともに偏見を払拭するための研修を毎年行ってきました。
にもかかわらず今回の問題が起こってしまったのは、教育研修の不十分さを露呈したものであり深く反省するとともに、さっそく対策を講じるつもりでおります。まず、具体的には、謝罪放送後、取り急ぎ4月8日、10日の2日間にわたってTBS「ウォッチ!」番組制作の全スタッフ132名を集め、なぜこのような問題が起こってしまったか、そしてこれによって精神障害者の方をはじめ、ご家族、関係者の方々を如何に苦しめ傷つけてしまったか、また、今後このような事を2度と起こさないためにはどうすれば良いか、について学びました。この研修会では、TBSの報道局記者で、精神障害の方たちを長年取材し、最近「悩む力 べてるの家の人々」という精神障害者の方たちのドキュメントの著作を出版した斉藤道雄が講師をつとめ、その斉藤の『統合失調症はきわめて一般的な病気であり、治療によって回復するものである。自分の多くの取材体験の中で統合失調症の方々に対して自らの身の危険を感じたことなど一度たりともない。むしろ、彼らとともにいると“人として懸命に生きること”の本質を学んだ』とのコメントを受けて、統合失調症など精神障害の方々に対する理解を深める努力をいたしました。今後の社内研修の内容については同じ考えから、制作スタッフ間で率直な意見交換を行う「勉強会」を開催するとともに、斉藤からの『実際に精神障害者の方々と接することが非常に大切である』というアドバイスに基づき、精神障害者の方や関係者の方をお呼びして、直接お話をうかがう機会を設けるつもりです。以上のような研鑽を通じて、精神障害者の方々に対する偏見や誤解を解き、正しい理解を視聴者の方々に提供できるようなものを「ウォッチ!」内で放送してゆきたいと考えています。その理由としては、同じ視聴者が同じ番組を見る傾向が強いことから、統合失調症への偏見を助長する放送をすでに視聴している視聴者の誤解と偏見をとくためには、同じ番組で啓発情報を流すのが効果が高いと考えるためです。また、番組が放送されるまでのチェック体制の不備については早急に検討強化し、2度とこのような事態にならぬよう努めてまいります。
最後に、今回の放送で統合失調症に苦しまれている方々やご家族、そして関係者のみなさまに多大なご迷惑とご心痛をおかけしたことを改めてお詫びいたします。
敬白